Tripp Trapp 事件の波紋 =応用美術の権利性は広がるか?= (2015年11月2日)
Tripp Trapp 事件の波紋 =応用美術の権利性は広がるか?=
弁護士 苗村 博子
平成27 年4 月14 日、知財高裁が、珍しく著作権の範囲で画期的な判決を出した。侵害そのものは認めなかったものの、実用品の最たるものである椅子のデザインについて、著作権を認めたのだ。これまで知財立国と言うにはほど遠く、応用美術にはほとんど目もくれないのが裁判所だった。他の多くの国では、応用美術にも著作権を認めているが、実用品については、特別顕著な創作性がなければだめだという理論で、著作物性すら認めないのが、今までの裁判所の態度だったのである。実用品で認められたのは、ほとんど一刀彫りといえる高級仏壇くらいである。裁判所は実用品のデザインを保護するのは3 年の保護期間しかない意匠権で十分だと考えていた節がある。そしてこの考えを美術以外のもの、たとえば私が一審で敗訴した(二審で相応の和解)建物やその他にまで及ぼし、著作物性の範囲を極端に狭く解するようになってしまい、私たち知財弁護士を悩ませ続けたのである。
知財高裁は言う。「著作権法が『文化的所産の公正な利用に留意しつつ、著作者等の権利の保護を図り、もって文化の発展に寄与することを目的と』している事に鑑みると、表現物につき、実用に供されること又は産業上の利用を目的とすることをもって、直ちに著作物性を一律に否定することは、相当ではない。」と。そして、絵画、版画、その他の美術の著作物をあげる2 条1 項に、美術の著作物には美術工芸品を含むものとするとある2 項は、単なる例示に過ぎないとして、「例示にかかる『美術工芸品』に該当しない応用美術であっても、同条1 項1 号所定の著作物性の用件を充たすものについては、『美術の著作物』として、同法上保護されるものと解すべきである。従って、X 製品は、上記著作物性の用件を充たせば、『美術の著作物』として同法上の保護を受けるものといえる。」ともいう。待ち焦がれていた認定である。これからはいわゆるそっくりさん製品は姿を消して行くことになり、初めてそのデザインを想起し、表現した人に権利が与えられることになってくれることを切に願っている。