宜野湾市での民訴法学会大会(2023年7月)
弁護士 苗村博子
「今年は実地開催、沖縄でだよう、行こうよお」との先輩弁護士からのお電話で、慌てて貯まったマイルを使って、5 月、那覇に飛びました。遊びに行ったわけではないのでレンタカーではなく、ゆいレールを使っての移動も経験して開催校の沖縄国際大学に向かいました。開催校からのご挨拶で、屋上に上がれば普天間基地が見えること、2004 年、校舎に米軍のヘリコプターが墜落したときに焼けた木の周辺が、メモリアルのため残されていて見学できることも教えていただきました。
この大会での発表でもっとも私が感銘を受けたのは、裁判官のものでした。歴代の裁判官のご発表者には申し訳ないですが、これまでのご発表の中でも一番興味深いものでした。その発表は私の記憶によれば、大要、次のようなものです。
沖縄に行くと、大きな墓所が点在していることに皆さん、気が付きますよね。また先祖崇拝の慣習が強く、様々な儀式の日には、墓所に親族が集まって、飲食をする風習があるのをご存じの方も多いと思います。そのさらに大きな一族の墓、アジ墓というのが、琉球王国に統一される前の三山時代(あとで Wikipedia で調べると室町時代のようです)あたりの士族の間で作られるようになり、その時代の法律(なのか慣習なのかはっきりしませんが)では、男系長子だけが相続するため、このアジ墓もその一族の男系長子がずっと継いで、様々な儀式を行ってきたそうです。それは今日まで及ぶところで、その一族の物ともいえることから、一つのアジ墓でつながる一族を一般社団法人化してアジ墓を守ろうという一族が出てきたり、社団法人化されていない場合はアジ墓として登記ができないため、他人の名義になっていたりして、そのようなアジ墓の不動産としての所有権をめぐる訴訟が那覇地方裁判所には一定割合であるとのことでした。特に南部では、法務局の記録自体が焼失してしまっていて、公的記録が残っていないことや、その経緯自体を知る方たちも皆さん亡くなってしまっているため、その立証は当事者双方共に困難を極めるとのことで証拠が歴史資料だけという事件もあるようです。また男系長子相続は今の日本の民法では認められないため、これをどう考えていけばよいのか、という点も裁判所としてはご苦労があるようです。このような問題は、少数民族の慣習と西欧から来た平等という文化の衝突という面もあり、考えさせられる問題であるとともに、特に「南部」でという点は沖縄戦の激戦地であったことも当然、関係していることがわかりました。この発表をZoom ではなく、宜野湾市において実体験として聞けたこと、誘ってくれた先輩に感謝です。翌日は昼休みに屋上で基地を見、その広大さに驚き、ヘリコプターの墜落後の写真やその際の記録を読んで慄然としました。怪我人が出なかったことが唯一良かった点です。 夜は久々にお会いする先生たちと那覇の国際通りで美味しい沖縄料理をいただき、ためになり、かつ楽しくもあった学会を終えました。