「土を喰らう十二か月」を観て(2023年4月)
弁護士 苗村博子
皆さん、このタイトルご存じですか?私は「知財ってなに」(https://www.chizai.info)のN弁護士同様、数年前からジュリ沼にはまっているのですが、その沢田研二さんがキネマ旬報他で主演男優賞を取られた、水上勉のエッセイを原作とする映画のタイトルです。水上さんは京都の禅寺で小僧さんをしていた経験から、その後移り住んだ長野の別荘で自ら畑を耕し、作った精進料理を雑誌で紹介しました。中江裕司監督はそこに主人公ツトムの編集者兼恋人、真知子を配し、ジュリーが作るおいしそうなタケノコや茗荷ご飯、ゴマ豆腐などを土井善晴先生の監修のもと映画に登場させました。見どころ、語りどころはいろいろあるのですが、このコラムでご紹介するのは、この土を喰らうということです。何度かお伝えしているとおり私も家庭園芸を行っており、土をどれだけ準備するかでできる野菜もお花も随分変わるというのは毎年実感するところです。去年芽がでないと思ったら山鳩に種食われちゃってといいながらツトムが鳩を追い掛け回すのに真知子が大笑いというシーンが映画に出てきますが、私は、私のバイブル、『趣味の園芸 やさいの時間』のお教えのまましばらくは鳥の来なさそうな場所でポットで育ててから移植します。といっても昨年はいい加減なままの土に植え替えたので、最後のところでソラマメのさやは枯れてしまいました。山鳩にも見向きもされません。かと思えば割といい加減な土でも育つといわれるトウモロコシはもう少しで食べられそうってところで、全部カラスに持っていかれてしまいました。こんな小さな家庭菜園でも毎年作物の出来も土の状態も違いますが、放っておいたのに(それがよかった?)丸まると太ってくれた今年の大根を見ると私じゃなくて土が育ててくれたんだと実感します。
いま日本に必要なのは農作物の自給ですね。どのように産業化し、若い人たちに農業を担ってもらえるか、もちろんAIなど人工知能やロボットの力を借りたり、建物内での野菜工場なども十分研究されるべきですが、遠回りなようですが、自ら野菜を育ててみることも意味があるように思います。どんなに手間がかかるかがわかる、となると少し高くても文句は言わない、夏野菜をビニールハウスでどんどんストーブであっためて冬に食べる贅沢はあきらめ、旬をありがたくいただくといった少し時間をかけた農業教育、食育というようなものが必要な気がするのです。ドイツではクラインガルテンといって地域の皆さんが集まってつくる菜園のようなものがたくさんあるそうです。またツトムさんは、ご近所の方が持ってきて山と積んでくれた白菜を塩漬けに、渋柿を干し柿にし、梅干をつけて保存食も作っていました。
もちろん世界中が平和でどこへでも食料が安価にかつ環境負荷をかけずに届けられればよいのですが、必要なのは、武器で相手を倒すことではない、孤立を余儀なくされたときに、自分たちの食べるものは自分たちで作れることだと、素敵な映画からそんなことも思ったのでした。