雑感(映像の世紀「バタフライエフェクト」を観て)(2022年7月)
弁護士 苗村博子
ウクライナ侵略が 5 ヵ月目に入り、支援疲れがささやかれるようになってしまいました。心の痛むつらい映像等もだんだん見なくなり、ニュース離れが進んだともいわれています。近頃は私もおさぼり気味で、録画までして見るテレビ番組は NHK 総合の映像の世紀 バタフライエフェクト、E テレのターシャ・テューダーの庭からの 30 分番組と一週間のニュースをまとめてみるサンデーモーニングくらいです。
バタフライエフェクトの新シリーズは、この原稿を書いている 6 月 28 日現在で 11 作が放映されましたが、いずれの回も素晴らしく、様々な重大な事象とその前の蝶の羽音とのつながりを教えてくれます。特に印象的だったのは、ベルリンの壁の崩壊とメルケル首相誕生から退任までの物語でした。メルケル前首相を含む 3 人の女性の東ドイツでの市民間の密告社会の息苦しさから、その開放への半生が鮮やかに描かれていきます。そして、ベルリンの壁の崩壊は一種の誤報から始まったという、それまで知らなかった事実も良い方向へ向かったミステイクとして記憶されました。10 回目のアラビアのロレンスの回には、ナチスによるホロコーストの映像、その後のユダヤとアラブの対立、パレスチナ難民の発生、テルアビブ空港自爆テロ事件に始まる互いの報復の連鎖が、陰鬱に描かれていきます。なぜ、大虐殺の被害者であるユダヤの人が、アラブの人を殺さなければならないのか、なぜ、日本人までかかわりながら、テロという形でのパレスチナの独立主張が必要なのか、その対立を生んだのがロレンスかどうかはともかく、対立を平和的に解決することの難しさを痛感します。最後はイスラエルとパレスチナの間の壁にバンクシーが絵を描くことで、人々の関心を呼んでいるとささやかな希望を残してこの回は終わりました。昨日のキューバ危機の回、こちらは一人の信念を持ったソ連のスパイ(最終的に米国のスパイであることを裁判で自ら認め、死刑判決、銃殺刑となります)の存在、第二次世界大戦中に日本国土への空爆を指揮し、これを悔やんでいた時の米国の国防長官が、キューバのソ連基地への先制攻撃を強く主張する元上官に最後まで反対したこと、ケネディ大統領の同調、そしてソ連側にも、潜水艦からの核攻撃を止めた副艦長がいたこと等、様々な人々の平和への勇気ある行動が、第三次世界大戦、核戦争を阻止したことを教えています。しかし、その後平和運動を進めたケネディ大統領が翌年暗殺された映像が流れ、この暗殺が、大統領のこの動きに反対する何らかの組織的なことだったのかを暗示するかのように番組は終わります。
20 世紀に起こった悪しき出来事を、平和裏に解決する方法を見つけたつもりだった私たちは、21 世紀になって今、香港、ミャンマー、アフガニスタン、ウクライナの問題などを突きつけられています。再度 20 世紀を見直すべき時に、良い番組が続いてくれていることを少し嬉しく思っております。