児童婚(2021年10月)
弁護士 苗村博子
外出自粛の中、Netflix で続けて見たのは、The Blacklist と Designated Survivor というアメリカのシリーズドラマです。後者は邦題が『サバイバー:宿命の大統領』という、ワシントン DC の連邦議会が爆破され、大統領や上下院議員のほとんど全てが被害に遭って死亡、そのようなときのために designateされた住宅局局長が大統領として米国を指揮するというドラマです。荒唐無稽なようですが、今年の連邦議会襲撃を見た後では妙にリアルに感じます。両方のドラマに共通するのは、米国で、国際的なものも含め社会問題とされる事象を織り交ぜていることです。取りあげられる話題は、銃規制、移民問題、アフガン撤退、薬物依存、LGBTQ の問題、人身売買、企業と政界の癒着、人工的なウイルスによるバイオテロなど、どれも私たちが感心を寄せる必要のあるものばかりです。その中でも、日本ではほとんど議論されない児童婚の問題を 2 つのドラマとも取りあげています。いずれも主人公が、何らかの理由で壮年男性と面談、その男性が中学生くらいの女の子を伴っているので、可愛いお嬢さんですねというと、「いえいえ、隣にいるのは私の妻です」と紹介し、主人公は児童婚の実体に気付くというものです。
ユニセフの定義によれば、18 才未満の婚姻を児童婚としています。日本では現在、女子は 16 才以上ですが、来年 4 月からは男女とも婚姻年齢が 18 才以上となり、また日本では結婚する 2 人の意思が合致していないと婚姻は成立しないため、日本が批准していない、女子の意思に反した婚姻を禁じる奴隷制度廃止補足条約にいう児童婚はなくなるといってよいと思います。他国の多くの児童婚は、女の子がその対象で、かつ親の意向などで倍ほども年齢の違う男性と結婚させられ、母体として十分な成長を遂げていないにも関わらず、妊娠、出産し、その後の学業が続けられなくなったり、ひどい時には命を落としたりするものです。コロナ禍で児童婚は増えているとの報道があり、また米軍のアフガン撤退により同国で、さらに女の子の教育の機会が奪われ、このような児童婚の対象となることが増えるのでないかと心配になります。
この問題は、国連の SDGs の目標でも2030 年までに撲滅が呼びかけられていますが、強制労働や人身売買と同じ根を持つものの、宗教、因習、法律、貧困、女性差別などと強く結びついていて企業の活動や国際機関の支援でもなかなか解決の糸口が見つからないのが悔しいところです。女の子一人一人に意思決定権があることを、児童婚を認める社会に伝えていくことから始めるしかないのでしょうか?