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入国管理法改正案などの国会での不採決の意味(2021年7月)

弁護士 苗村博子

入管法の改正案が2021年の通常国会に提出されましたが,採決に進まず,廃案となりました。在留特別許可申請の新設,被収容者の処遇に関する手続の整備,収容に代わる監理措置制度の創設など,入管での長期の収容に対応するための制度もあるものの,刑事罰を含む,送還に応じない者に対する退去命令制度の創設など問題も多く,改悪ではといわれる中,3月に不法滞在で収容されていたスリランカの女性が名古屋の入管施設で亡くなられた件の真相究明を巡り,野党が審議拒否したことが採決をしない直接のきっかけとなりました。現在の入管法を改正する必要はわかるものの,方法論が間違っている?ということで更に検討が必要となるかと思います。

日本は,この10年,野党の力が余りに弱く,強行採決,忖度政治に続き,政官癒着や,懐かしき?金権政治まで表面化する事件が続き,私たちをうんざりさせてきました。

ただコロナ禍が問題となってきた2020年の国会以降,強行採決では無く,世論が高まった法案について,閣議決定されても,不提出となったり,採決されずに廃案となるケースが出て来ました。昨年の臨時国会で承認された種苗法の改正も,農家の自家増殖権を巡って有名人からの反対意見が出される中,2020年の通常国会での決議は見送られました(ただ,昨秋の臨時国会では,ほとんど議論無く可決されています)。

コロナ禍で急に検討しなければならなくなった課題が多く,審議に時間が取れない,国会を紛糾させたくないというのが根底にあるのかとも思いますが,国会の外でわき上がってくる声が少しでも届いて,自主的な動きになったのであれば,反対論も含めていろいろな話を聞いてみるという,民主主義の根幹の部分が機能しているのかとも思います。

この数年,世界でも民主主義と専制主義について多くの問題が提起されてきました。ロシアのクリミア併合,香港の言論の自由の封殺,ミャンマーの軍事クーデターなど,民主主義からほど遠い行為が,この21世紀になって頻発しています。また民主主義の牙城と信じていたアメリカでは連邦議会が市民によって襲撃されるなど,信じられないことが起こる中,新型コロナ感染を押さえ込むには,専制主義の方がよいという人たちまで現れてきています。問題が多いとされた入管法改正が見送られたのは,少し嬉しいトピックかと思います。

ただ,同じ法案採決の問題でも,今国会で議論が検討されていたLGBT理解増進法案が審議されなかったこと,その中で与党内にLGBTが種の保存に背くといった意見があったことが影響したのであれば,とても残念です。この問題については頁をめくって是非,札幌地裁の令和3年3月17日判決のコラムをご覧ください。

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