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著作物の利用による著作者人格権との抵触 -リツイート事件最高裁判決を題材に-(2020年9月28日)

著作物の利用による著作者人格権との抵触

-リツイート事件最高裁判決を題材に-

弁護士 田中 敦

 

1 はじめに

本年7月21日、最高裁が、Twitter上のリツイートによる著作者人格権侵害を認める判決(以下「本判決」といいます。)を下しました。

近年、SNS等の普及により、引用や改変といった他人の著作物の利用がごく身近なものになりました。しかし、著作物の利用の場面では、たとえ当該利用行為が著作権を侵害しなくても、著作者が有する著作者人格権との関係で問題を生じることがあります。そのような場面で、双方の権利や利益をどう調整すべきかについて、本判決は、重要な問題提起をするものと考えます。

本稿では、本判決の事実経緯と判示内容を簡単にご紹介した上、著作物利用と著作者人格権との関係について、海外の法制度とも比較しつつ、その問題点や注意点を述べます。

 

2 リツイート事件の事実経緯

本判決の第一審原告はプロの写真家、第一審被告はTwitter, Inc.(以下「Twitter社」といいます。)です。第一審原告は、みずから撮影した写真(以下「本件写真」といいます。)の隅に「c」マークと氏名を付記して、自己のウェブサイトに掲載していました。ところが、氏名不詳者(以下「元ツイート者」といいます。)が第一審原告に無断で本件写真をTwitter上にツイート(投稿)し、続いて、別の氏名不詳者(以下「リツイート者」といいます。)がTwitter上で当該ツイートをリツイート[1]しました。Twitterの仕様上、リツイートされた本件写真は、元画像の上下一部がトリミングされており、本件写真上の氏名部分が表示されなくなっていました[2]

第一審原告は、元ツイート者及びリツイート者による本件写真のツイート及びリツイートが、著作権(複製権、公衆送信権等)及び著作者人格権(氏名表示権、同一性保持権等)を侵害するとして、それらの者の発信者情報の開示を求めて提訴しました。第一審判決は、リツイートによる著作権及び著作者人格権の侵害をいずれも否定しました[3]。これに対し、原審判決(知財高裁)は、リツイートによる著作権侵害を否定しつつ、著作者人格権侵害につき、リツイート者を侵害主体として氏名表示権及び同一性保持権の侵害が成立すると判示し、第一審の判断を覆したため、これを不服としてTwitter社が上告しました。

 

3 本判決の判示内容

まず最高裁は、氏名表示権侵害の成立には、著作権法21条から27条までが定める各支分権の利用行為によることを要しないとして、リツイート者が、本件写真の著作権侵害にあたる利用行為をしていなくても、氏名表示権侵害が成立し得ると判示しました。

続いて、最高裁は、たとえクリックすることで氏名部分を閲覧できるとしても、リツイートに伴う本件写真のトリミングにより氏名部分が非表示となったことが氏名表示権侵害にあたると判示しました[4][5]。侵害主体については、Twitterの仕様への主観的認識にかかわらず、客観的にはリツイート者の行為によってトリミングが生じていることから、リツイート者が氏名表示権侵害の主体であると判断しました。

ただし、本判決には、リツイートによる著作者人格権の侵害主体はリツイート者ではないという反対意見が付されています。その理由として、リツイートによる画像のトリミングは、Twitterの仕様によるものであり、リツイート者がそれを変更できないこと、及び、Twitter上で著作者人格権侵害の問題を生じる無断アップロード[6]をしたのは、リツイート者ではなく元ツイート者であることが挙げられています。さらに、当該反対意見では、リツイートをする者が、元画像の出所や著作者の同意等について逐一調査しなければならないとすれば、Twitter利用者に過大な負担を強いることが指摘されています。

 

4 著作物の利用と著作者人格権

(1)著作権法の規定と問題点

本判決は、特定のSNS上に無断アップロードされた著作物に関する判断であり、本判決の射程が著作物の利用行為一般に広く及ぶとは考えられません。とはいえ、本判決は、SNS利用への注意喚起にとどまらず、著作権侵害とならない利用行為であっても著作者人格権を侵害し得ることを再認識すべき契機となります。

わが国の著作権法上、引用等の一部の利用行為については権利制限規定(著作権法30条以下)が設けられており、たとえ著作権者の許諾がなくとも一定範囲でこれが認められます。しかし、それら権利制限規定は、著作者人格権に影響を及ぼしません(同法50条)。したがって、たとえば引用の規定(同法32条)に従い著作物を一部利用又は要約引用する場合、引用に伴う改変と同一性保持権との抵触が問題となります[7]。この点、どのように調和を図るべきかは大変難しい問題であり、著作者人格権を硬直的に絶対視すべきではなく、著作者人格権に関する規定の柔軟な解釈によって解決すべきとの見解が有力です[8]。権利制限規定とは異なりますが、本判決の反対意見も、著作者人格権を過度に保護することは著作物利用の萎縮につながり妥当でないとの考えが背景にあるように思われます。

 

(2)海外の法制度

上記(1)の問題が生じる一因として、わが国の著作権法は、世界的に見て最高水準[9]ともいわれるほどに著作者人格権を強く保護しています。

海外の例を見ると、著作者人格権の保護に重点を置く大陸法系諸国では、わが国と同様に、原則として権利制限規定よりも著作者人格権を優先しているようです[10]

他方で、歴史的に人格権保護よりも著作物の自由利用に重点を置く米国では、権利制限の中心的規定であるフェアユースに関して、人格権よりもフェアユースが優先することが条文上明記されています[11]

 

(3)本判決を踏まえた今後の注意点

以上のとおり、著作物利用と著作者人格権との優劣は、明確なルール作りが難しく、国によっても制度が異なるため、個別の場面に応じた検討が必要となります。

現在、個人のみならず多くの企業も、広報活動の一環としてSNSを利用しています。本判決を踏まえ、Twitter等のSNS利用者としては、改めて利用規約を確認の上、他者の投稿を転載等する際には、著作者に無断アップロードされた可能性がないか、転載により改変が生じるか等、その都度注意を払うことが求められます。

また、著作者人格権との抵触は、SNSに限らず著作物利用の場面で広く問題になり得ます。改変による同一性保持権侵害、氏名削除による氏名表示権侵害のほかにも、著作者の名誉や声望を害するような態様で著作物を利用すれば、著作者人格権のみなし侵害(著作権法113条6項)となります[12]。近時、インターネット利用の拡大により、ユーザーによる著作権への意識が高まりつつあると考えますが、本判決を機に著作者人格権についても認識が深まることを望みます。

 

 

[1] 別のツイートを引用して転載又はコメント付記するTwitterの再投稿機能をいいます。

[2] もっとも、利用者がリツイートされた画像をクリックすることで、氏名部分を含んだ本件写真の元のツイートを閲覧することができました。

[3] 元ツイート者によるツイートが本件写真の著作権(公衆送信権)を侵害することは、第一審原被告間で争いがありませんでした。

[4] 上告受理申立理由には、リツイート者による本件画像のリツイートはプロバイダ責任制限法4条1項に基づく開示請求の条文上の要件を満たさないことも含まれていましたが、最高裁はこの主張を認めませんでした。

[5] 同一性保持権侵害の成否については、最高裁判決中で判示されておらず、原審による判断が確定したものと考えられます。

[6] Twitterへのアップロードが著作者の同意の下でなされた場合、著作者によるTwitterの利用規約(リツイートに伴うトリミング)への同意があるものとして、基本的にはリツイートによる著作者人格権侵害の問題を生じないと考えられます。

[7] 改変に対する同一性保持権の行使にあたっては、一定範囲で立法上の制限が設けられています(著作権法20条2項各号)。

[8] 中山信弘『著作権法[第2版]』(有斐閣・2014年)482頁

[9] 中山・前掲注8・469頁

[10] 韓国著作権法38条、台湾著作権法66条、ドイツ著作権法62条及び63条、フランス著作権法122の5条2項、中国著作権法22条等。

[11] 米国著作権法106条A、107条。

[12] 例としては、芸術作品である裸体画を複製してヌード劇場の立看板として利用することなどが挙げられます(加戸守行『著作権法逐条講義[6訂新版]』(著作権情報センター・2013年)756頁)。

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