18年にわたって継続した販売代理店契約の解消が問題となった事例(2012年3月9日)
18年にわたって継続した販売代理店契約の解消が問題となった事例
弁護士 中島康平
【はじめに】
今回は、18 年にわたって継続した販売代理店契約の解消が問題となった東京地裁平成22 年7 月30 日判決・判時2118号45 頁をご紹介します。
【事案の概要】
X は、 Y との間で外国製ワインを日本における独占的に輸入・販売することを内容とする販売代理店契約(以下「本件販売代理店契約」といいます)を締結し、ワインを輸入・販売していましたが、Y は、平成17 年1 月5 日ころ、X に対し同年4月末日限り本件販売代理店契約を解約する旨通知しました(以下「本件解約」といいます)。
X は、本件解約が本件販売代理店契約上の1 年間の予告期間を設ける義務に違反するとともに、X の日本における独占的な輸入販売権を侵害するものであると主張して、 Y に対し、債務不履行又は不法行為に基づく損害賠償として8 ヵ月分の粗利益に相当する8280 万円の支払いを求めました。
なお、X は平成11 年12 月に設立され、完全親会社であるA からワイン部門の営業譲渡を受けています。A とオーストラリアのワイン会社であるB は、昭和62 年、B のワインを日本に輸入・販売することを合意し、以後、A はB にB ブランドのワイン(以下「B ワイン」といいます)を発注してこれを日本に輸入し販売してきました。Y は平成13 年にB を買収し合併したオーストラリアのワイン会社です。
【争点】
1 本件販売代理店契約の成否
2 債務不履行、不法行為の成否
3 X の損害
【判旨】一部認容、一部棄却〔確定〕
争点1
本判決は、本件販売代理店契約の成否について、本件販売代理店契約に係る契約書は存しないからB ワインについて継続的な取引関係が存在しただけであって本件販売代理店契約が存在したとはいえないとのY の主張を排斥し、① A は、昭和62 年にB との間でB ワインを日本に輸入して販売する合意をしたこと、② A及びその後にその営業譲渡を受けたXは、通算18 年にわたってB ワインを注文して日本に輸入し販売してきたこと、③この間、B やこれを合併したY は、A又はX との間で日本における販売戦略等について協議してきており、X に対し販売代理権がないことを理由にB ワインの出荷を拒否したことがなく、他の販売代理店を通じて日本においてB ワインを販売したこともないこと、④ Y 作成の文書中にX が販売代理店であることを前提とする記載があることを総合すると、A とB は、昭和62 年、A においてB ワインを日本に独占的に輸入・販売することを内容とする本件販売代理店契約を締結したものと推認されるとしました。
争点2
その上で、本件販売代理店契約の解約に関し、X とY は本件販売代理店契約に基づき18 年という長期にわたり取引関係を継続してきており、その間にX は日本におけるB ワインの売上げを大幅に伸ばしてきたこと等に照らせば、X において将
来にわたって、Y のB ワインが継続的に供給されると信頼することは保護に値するものであるから、Y が本件販売代理店契約を解約するには、1 年の予告期間を設けるか、その期間に相当する損失を補償すべき義務を負うものと解されるとし、予告
期間を4 ヵ月とするY の本件解約はかかる義務に違反するものであって、債務不履行にあたると判断しました。
なお、Y が本件解約に先立ちX に対し販売業績への懸念を表明し、販売代理店を変更する可能性を警告していたことに関しては、本件販売代理店契約の終了を予告したとはいえないし、本件解約で設けた4 ヵ月の予告期間を正当化することもできないと評価しています。
争点3
Y の債務不履行によるX の損害に関しては、予告期間として相当な1 年から本件解約の予告期間4 ヵ月を差し引いた8 ヵ月について、B ワインの売上げがなくなり、売上げにより得べかりし総利益を喪失しているが、その反面、B ワインの売上げに要する販売直接費と共に販売管理費(労務費、経費、広告宣伝費、償却費からなるもの)を免れることができると考えられるから、Xの被った損害とは、総利益から販売直接費及び販売管理費を控除した営業利益の喪失分と解するのが相当であるとし、粗利益相当額を主張するX の主張を退けて、8 ヵ月分の営業利益に相当する590 万4000円を損害として認定しました。
【検討】
継続的取引の解消は実務上検討されることが多い法律問題の一つだと思われます。継続的取引に係る契約書が作成されていることが多いとは思われますが、相当期間にわたる取引の場合、取引開始当初において契約書等が作成されず、また作成されていても非常に簡潔な内容にとどまる事例も見受けられます。本件も契約書が存在しない期間の定めのない継続的契約の解消が問題となった事例です。
長期間にわたり取引関係が継続してきた場合には契約当事者に今後も取引が継続されるとの期待が生じることがあり、取引継続への合理的期待をどのように保護するかが問題となります。判例に関しては、継続的に続いた特約店および販売店契約
については解約あるいは更新拒絶は公序良俗違反あるいは権利の濫用にならない限り契約自由の原則によるとするもの、合理的理由あるいはやむを得ない事由が必要であるとする判例もあり、これを不要とする判例もあり、必要とするものも、結局、
供給者の主張どおりに解約を認めたもの、合理的予告期間が必要であるとするもの等があり、判例の方向は固まったとはいえないとされています※ 1。
本判決は、このような状況の中で継続的取引の解消に関する近時の事例として実務上参考になるものと考えます。