著作権法改正~違法ダウンロードの対象拡大と写込みの例外~(2021年3月22日)
著作権法改正~違法ダウンロードの対象拡大と写込みの例外~
弁護士 苗村博子
1.改正の経緯
2020年6月に著作権法が改正され,違法にアップロードされた著作物のダウンロードが,これまでの音楽,映像に加えて,静止画でも違法となり,2021年1月から施行されています。この改正は,海賊版サイトの漫画村などからダウンロードして読む人が増え[1],これを阻止するための方策として,侃々諤々の議論の末,たどりついたものです。ネット利用への制限になるなど反対論に対しての配慮から,ダウンロードの違法化を制限することにもなる写込みの合法化(2020年10月より施行)などを盛り込み漸く成立に至りました。
テレワークで,PCやスマホと向き合う時間が多くなり,またインターネットが情報収集の重要なツールとなった今,インターネット上で見つけた資料は様々にダウンロードして資料として残したいと思う場面が増えています。
写込みの問題は,これまでは,テレビや映画の撮影の場面で特に配慮が必要とされたところですが,私のようなものまでVimeoを使って動画を配信するようになった今, You TubeやTikTok,Instagramなど,動画が個人や企業の宣伝でも気軽に使われるようになると,そこに写込むものの著作権を侵害しないかは,インターネットを使う全ての人に関わる問題となります。今回の改正,文化庁からQ&A[2](「Q&A」 )や趣旨説明も出されているのですが,実際に考えて見るとそう簡単に違法と合法の違いがわかるというものではなさそうです。
2.違法ダウンロードの対象の拡大
(1)私的利用の場面での規律である?こと
これまで音楽,映像の著作権については,私的利用を権利侵害としない,いわゆる例外規定の一つである著作権法30条の中の例外規定(従って著作権が及ぶ場合)の3号に,違法にアップロードされた著作物のダウンロードが定められたことから,ダウンロードは違法,ダウンロードしないいわゆるストリーミングは,47条の8で,一時的にキャッシュが保存されても,複製とはみなされず,裁判所,文化庁共に著作権侵害にはならないと考えだとされてきました[3]。今回の改正で30条の例外として第4号が新設され,静止画についても違法にアップロードされたものを,そうと知りながらダウンロードした上で閲覧するのはたとえ,私的利用の範囲内の行為であっても,許されないこととなりました。
ただ,違法コンテンツのストリーミングについては,Q&Aでは政府として推奨される行為ではないとされています。文化庁は,複製に当たらないとの考えではなく,複製権侵害に該当するものの,30条の私的利用の範囲として,違法としないとの方向に考えを変更したのかもしれません。私などはどうみても番組制作者の同意はないと思われるテレビ映像について,フィギュアスケートの演技など見逃したものをYouTubeで,ダウンロードせずに一人こっそり見ていましたが,今後どうしたら良いのかと悩むこととなります。同じく静止画についても違法なアップロードと知りながらインターネット上で閲覧することは推奨されていません。このQ&A,判例や条文の建て付けと整合していないようにも思いますが,それはともかく,注意しなければならないのは,私的利用といえない場合です。例えば,会社の業務としてのZoom会議で,録画機能は用いずに,インターネットのコンピュータ画面を何人かで共有して見るといった場合,このインターネット画面が違法にアップロードされたものであることを知っているか,過失により知らないという場合は,Q&Aをこのように読むと著作権侵害になる可能性があります。30条の4号は違法アップロードに対して知りながらダウンロードする場合だけが対象とされていますが,私的利用といえない会社の業務として用いる場合にはそもそもこの30条の問題とは言えません。Q&Aに対する議論に注意する必要がありそうです。
(2) 4号のさらなる例外-軽微なもの
この4号で,違法ダウンロードについては,「特定侵害複製」という概念が定義され,軽微なものが更にこの4号から除かれました。従って私的利用の場面で軽微と評価されるダウンロードは著作権侵害にはなりません。何をもって軽微というかについては,Q&AのQ23~Q27に詳しく説明があります。数十ページの漫画の内,数コマ,論文であれば数行のダウンロードは軽微といえるとされているので,「軽微」基準はそれなりに厳しいものと考えたほうがいいでしょう。
(3) 4号のさらなる例外―二次的著作
ある著作物を用いて更に著作物が作成された場合,それを二次的著作物と呼びます(28条)。この二次的著作物には本来原著作物の著作権が及んでいます。似たものにパロディがありますが,パロディが二次的著作にあたるか,また原著作者の著作権が及ぶかどうかは長く議論になってきました。
この4号では,二次的著作物が除かれており,私的利用の為,パロディや二次的著作物をダウンロードしても,原著作物の著作権侵害とはならないと説明されています。もちろんこれが二次的著作物の著作者の同意無くアップロードされたものである場合には,これを違法と知りながらダウンロードする行為は,二次的著作物の著作権侵害となります。なぜ,原著作が保護されず,これを用いた二次的著作は著作権保護の対象となるのか,Q&Aでは,二次的著作に対して,原著作者が権利行使しないことが多いとか,このような利用でさらなるコンテンツ創出がなされているといった説明がされていますが,論理的にはわかりにくい説明と感じます。
3.写り込みの合法化
もう一つ,このダウンロード違法化に対する厳しい批判を緩和するものともなったのがこの写り込みの合法化です。巷で「スクショはOK」とされているものですが,条文としては30条の2の「付随対象著作物」の利用とされ,写り込んだもの自体は「作成伝達物」と定義されています。例えば,私が,皆様のお役に立つようにと10分の法律解説動画を戸外で撮影する際に,後ろに写る店舗でBGMが流れている,テレビの画面が映し出されているといった場合です。このBGMやテレビ画面が,付随対象著作物で,10分動画が作成伝達物です。またご依頼者がスマホにきたラインのメールをスクショして,弁護士に画像を送るなどの場面で,もともとの送信者のアイコンに,その送信者の好きな漫画の主人公の画像が使われているという場合,そのアイコンが付随対象著作物,スクショ画像が再生伝達物となります。
これが合法とされるのは,付随対象著作物が,再製の精度やその他の要素から作成伝達物の中で軽微な構成部分となる場合に限られ,また上述のスクショを例にすると,アイコン部分を切り離せないかその困難性の程度や果たす役割から正当な範囲でなければなりません。ちなみに私が法律解説動画を作るのに他の著作権が紛れ込みそうな屋外で撮影する必要が有るかは議論が必要ですが,ご依頼者から送られた画像を裁判で用いてもアイコンの漫画の著作権侵害にはなりません(42条)。
4.著作権の持つ意味を問い直そう。
皆さん,この記事を読んで,中々面倒そうだなと思われたのではないでしょうか?この原稿を書いているさなかに見た日経新聞2021年2月21日付けの記事におもしろいことが書かれていました。日本の著作権法はフランスやドイツの考え方の流れを汲み,著作権を著作者の自然権(人権)と考えています。目に見えない無体の他人の権利を侵害しないようにするのは,なかなか有体物を盗まないというのと同じようには考えにくく,漫画村の漫画をスクショしてしまうというのです。著作権保護を次の創作のためのモチベーション保護と考える英米法的な考えでは,次の創作の恩恵を私たちも受けることが出来,より著作権保護に関心を寄せて貰えるということでしょう。いずれの考えが優れているというのではありませんが,今回の改正は,著作権保護と,保護された著作物を自由に用いたいとの考えの相克を取り込んだ難しいものとなっています。間違って著作権侵害を引き起こさないよう十分な検討が必要です。
以上
[1] 日本政府の推計ではその被害額が3000億円を超えるとされた。
[2] 令和2年12月24日文化庁著作権課「侵害コンテンツのダウンロード違法化に関するQ&A(基本的な考え方)」
[3] 東京地裁平成12年5月16日判決,同28年4月21日判決