独占的販売代理店契約の更新拒絶について 不法行為の準拠法が問題となった事例(2013年3月13日)
独占的販売代理店契約の更新拒絶について
不法行為の準拠法が問題となった事例
弁護士 中島康平
【はじめに】
今回は,化粧品の独占的販売代理店契約の更新拒絶に関連して,不法行為の準拠法及び共同不法行為の成否が問題となった東京地裁平成22年1月29日判決・判タ1334号223頁をご紹介します。第18号でご紹介しました東京地裁平成22年7月30日判決・判時2118号45頁(18年にわたって継続した販売代理店契約の解消が問題となった事例)とは異なり,本件は,契約書が取り交わされていた独占的販売代理店契約の解消に関する紛争です。
【事案の概要】
化粧品の製造,販売,輸出入等を目的とする日本法人であるXが,昭和61年3月からフランス法人であるAとの間で,化粧品(以下「本件商品」といいます)の独占的販売代理店契約を締結し,その後,契約を更新あるいは新たに締結して取引を継続しました。平成14年12月に締結された独占的販売代理店契約(以下「本件契約」といいます)では契約期間は4年とされ,本件契約及び本件契約に伴う合意事項には,手続及び審理についても,フランス法が適用され,供給品及びその決済に関して紛争が生じた場合には,フランス共和国サン・マロの商事裁判所を唯一の管轄裁判所とすることが規定されました。
本件契約は平成18年12月31日に期間の満了を迎えるところ,Aは,同契約の更新を拒絶し,Xからの商品の発注に対して契約が終了したと主張して,本件商品の出荷を拒否しました。一方で,Aは,化粧品の販売等を目的とする日本法人であるY₁と共同で本件商品等を日本国内で販売するY₂を設立し,Y₂が本件商品の日本国内での販売を開始しました。そこで,Xは,Y₁及びY₂に対し,Aとの共同不法行為に基づく損害賠償を求めました。
なお,Xは,Aも共同被告として訴訟を提起しましたが,本案前の問題があるため,Aについては口頭弁論が分離されました。
【争点】
1 XのYらに対する共同不法行為に基づく損害賠償請求についての準拠法
2 共同不法行為の成否
【判旨】請求棄却〔控訴〕
争点1(共同不法行為に基づく損害賠償請求についての準拠法)
法の適用に関する通則法17条本文(不法行為によって生ずる債権の成立及び効力は,加害行為の結果が発生した地の法による)について,Xが主張するYらの共同不法行為による結果はいずれも日本国内において生じるものであるから,その準拠法は日本法となると判断しました。
また,同法20条が,「不法行為によって生ずる債権の成立及び効力は,不法行為の当時において当事者が法を同じくする地に常居所を有していたこと,当事者間の契約に基づく義務に違反して不法行為が行われたことその他の事情に照らして,明らかに前三条の規定により適用すべき法の属する地よりも密接な関係がある他の地があるときは,当該他の地の法による。」と定めている点について,①Yらはいずれも日本国内に本店を有する株式会社であり,Xが主張するYらの共同不法行為による結果はいずれも日本国内に本店を有するXについて日本国内において生じるものであること,②Xは,Aとの間で,フランス法が適用される旨の条項のある契約等を締結しているが,Yらとの間では,そのような契約を締結していないこと,③Xが主張するYらの共同不法行為には,Yらが,共謀の上,Xを脅迫し,Xの信用を毀損し,業務を妨害したなどのXとAとの間の本件契約とは直接には関連しない行為も含まれていること等から,Xが主張するYらの共同不法行為について,明らかに日本よりもフランスが密接な関係があるということはできないとしました。
さらに, Yらは,XのYらに対する共同不法行為に基づく損害賠償請求は,XのAに対する不法行為に基づく損害賠償請求権の発生が前提となっており,これがYらに対する損害賠償請求権の発生の要件の一部を構成しているから,XのAに対する損害賠償請求権の発生については,先決問題としてフランス法が準拠法となる旨主張しました。しかし,この点については,Yらに不法行為責任が認められるかどうかは,Yらの共同不法行為とXの損害との間に因果関係があると認められるかどうかが問題となるにすぎず,必ずしもXのAに対する不法行為に基づく損害賠償請求権の発生が前提となるものではなく,AのXに対する不法行為に基づく損害賠償責任の成立が,Yらの共同不法行為成立の前提となる別個の法律関係を構成するとはいえないから,先決問題といえないとしました。
争点2(共同不法行為の成否)
Xは,XとAの間の長期間の継続的契約を終了させるには,Aは少なくとも2年間の猶予期間か2年分相当の営業補償金を提供すべき信義則上の義務があること等を主張しましたが,本件契約は契約期限までに契約の更新について合意しない限り更新されないことが合意されたと認められることから,Xが主張する信義則上の義務を認めることはできず,Aが提示した契約更新の前提条件を満たしていないとして,本件契約を終了させたことに正当な理由がないとまではいうことができないとして,AがXとの本件契約を終了させたことは,日本法に照らしても,Xに対する不法行為となるとはいえないと判断しました。
その上で,Yらについて,Y₁が,AがXとの契約を終了させる予定であることを知りながら,Aからの提案を受けて,Y₂を設立して,Y₁がAから本件商品を輸入し,Y₂がこれを購入し,日本国内の総販売元として販売することとしたことは, Xと競合商品を取り扱う会社の行為としては通常の自由競争の範囲内にある取引行為というべきであり,Aは,Xが持ち掛けたXの顧客のリストの買取りを断っていること等から,YらがAと共謀の上, Xの日本国内の販売先を奪取したとも認められないとして,共同不法行為の成立を否定しました。
【検討】
本件は,契約当事者間での継続的取引の解消が問題となっただけではなく,販売代理店の変更に際し,新たに販売代理店となった者等に対し,共同不法行為に基づく損害賠償が請求されたところに特徴があります。
また,本件では,自動更新条項が削除されていたことや更新について交渉されたものの前提条件について合意に至らず,更新について合意に至らなかったことから,Aが本件契約を終了させたことに正当な理由がないとまでいうことができないと判断しており,更新拒絶について正当な理由を積極的に認定していません。継続的契約の更新拒絶,解約等につきやむを得ない事由,正当な理由,信頼関係を破壊する事由等の制限を加える従来の多くの裁判例に対し,制限を緩和する近年の裁判例の傾向がみられることを指摘する文献もあり[1],本判決もそのような継続的取引の解消に関する近時の事例として実務上参考になるものと考えます。
なお,XとAの間の訴訟については,Aに対する管轄が日本にはないとして,訴えが却下されています(東京地裁平成20年4月11日判決・判タ1276号332頁)。Xは,Aとの関係でも債務不履行に加え共同不法行為に基づく損害賠償請求を主張していましたが,これについても,管轄合意の範囲内に含まれると判断されています。
[1] 升田純「契約自由の原則の下における継続的契約の実務」NBL993号46頁以下(2013)。