民法改正に伴う『約款』の見直し (2015年5月15日)
民法改正に伴う『約款』の見直し
弁護士 佐藤 有紀
民法改正案が3 月31 日付で国会に提出されました。今回の民法改正は、従前から
議論されていた債権法改正の集大成であり、実務に与える影響も少なくないものと思わ
れます。今回は、多岐に渡る民法改正のうち、定型約款(民法改正案第548 条の2 以下)に関する取扱い(のごく一部)について取り上げたいと思います。定型約款とは、「定型取引において、契約の内容とすることを目的としてその特定の者により準備された条項の総体」(民法改正案第548 条の2 第1項)と、定型取引とは、「ある特定の者が不特定多数の者を相手方として行う取引であって、その内容の全部又は一部が画一的であることがその双方にとって合理的なもの」(民法改正案第548条の2 第1 項)と定義されています。
定型取引を行うことの合意をした者は、一定の場合(定型約款を契約の内容とする旨の合意をしたか、定型約款を準備した者があらかじめその定型約款を契約の内容とする旨を相手方に表示していた場合)、定型約款の個別の条項について合意をしたものとみなされます(民法改正案第548 条の2 第1 項)。現状広く用いられている約款の法的な位置付けをしたのが今回の定型約款制度と言えるでしょう。
もっとも、そもそも定型取引は、取引の「内容の全部又は一部が画一的であることが」双方に合理的なものとされており、画一的であることが不合理であり定型約款に該当しないと判断される約款も出てくる可能性があります(例えば、約款の内容を相手方との間で特約条項により相当程度変更する場合など。この場合は契約内容自体は有効となれば実際上不利益はないかもしれませんが、それ以外の定型的約款に該当しないとされる場合に約款
が無効として民法の規定に沿って解釈されることもあり得るのではないかと思います)。また、画一的であることの合理性の判断要素は今後の実務の集積を待たなくてはならないように思われます。
なお、相手方の権利を制限し、義務を加重する条項で、定型取引の態様、実情、社会通念に照らし信義則に反するものは、契約内容と認められません(民法改正案第548 条の2 第2 項)。信義則違反となる場合は、「消費者の利益を不当に害することとなる」条項を無効とする消費者契約法上の概念と必ずしも一致するものではないこと、即ちいわゆるB to B 取引における約款が無効とされる可能性がある点には注意が必要です。