攻める知財―各国の水際対策(1) (2015年5月1日)
攻める知財―各国の水際対策(1)
弁護士 苗村博子
1.訴えられたら防戦する、かような守りの知財保護だけではなく、近時、皆様の重要な無形財産である知財を用いて、攻めることを始めた日本企業も出てきました。今回は、その方法の中でも比較的安価で、短時間ですむ、水際対策について、ご紹介します。
2.まずは、日本の概略ですが、水際対策は、税関が本来自ら行う手続きで、知的財産の「侵害疑義物品」を調査し、「侵害品」と「認定」するとその物品の日本への輸入を差止めます。侵害品の輸入による消費者の混乱等の防止という公益目的で行います。が、侵害品か否かを最もよく知るのは、その権利者なので、権利者に「認定手続」の申立権を認めています。申立権者は、特許他の知的財産権と不正競争防止法上の周知表示、著名表示
の保有者です。
3.①権利の存在、②侵害の事実の疎明、および③識別可能性が要件です。③については、識別ポイントを示した資料が申立の際の添付資料とします。製品の表示、外観、形状、製品の特徴の分かりやすい記述、写真や比較図面による説明等の工夫を要します。主に商標、著作権などでよく活用されますが、特許権でもこの制度が用いられます。1~2 ヶ月で認定の受理の可否が決まります。
4.米国では、国際貿易委員会が、特許、商標、著作権の他営業秘密やトレードドレスの保有者の申立に従って行います。特許権者が多く利用しますが、デザインパテント(意匠権)も入ります。海外で製造された模倣品が、直接米国に輸入されているような場合に効果的です。決定までには15~18 ヶ月を要します。公益目的と言う点は同じで、国内産業要件という、米国内の産業を破壊または実質的に害する等のような物品の輸入差止めが認められます。外国企業でも、米国で、その知財を用いて活動し(技術的要件)、(A) 工場等への相当な投資、(B) 相当な労働者の雇用や資本投下、(C)研究開発、ライセンス等の知
的財産権の利用のための実質的な投資(経済的要件)をしていれば申立可能です。行政判事が審理を行うため、その結果の予測可能性は、陪審に比してずっと高く、侵害には排除命令(輸入排除)か、停止命令が発令されます。不服申立は、CAFC(知財高裁)に行います。この手続でも和解制度があり、半数ほどは和解で終了します。