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債権法改正について (3)(2010年5月24日)

債権法改正について (3)

第1 ) はじめに
今回は、債権総論部分について、前回紹介しきれなかった債権の消滅部分を紹介していきます。今回も、従来の判例理論を明文化したものは除き、現在の運用と異なる規定だけをみていくことにしましょう。

第2 ) 相殺
相殺が受動債権の弁済という性質をもつことから、第三者弁済と同じ条件で、第三者による相殺を認めました。この規定により、債権者と債務者、物上保証人が存在し、物上保証人が債権者に債権を有していた場合、物上保証人の債権と債権者の債権との相殺を物上保証人が主張することができます。 相殺の遡及効を廃止し、相殺の効果は相殺の意思表示の時に生じることにしました。自動債権と受動債権で遅延利息が異なる場合、相殺適状のときから互いに利息が発生しないとするのは公平ではないと考えられたようです。 消滅時効期間が経過後の相殺は認めますが、時効援用後の相殺は禁止しました。時効援用により債権の消滅が確定するからです。 受動債権として相殺禁止となる債権を、不法行為に基づく損害賠償請求権から、害意のある不法行為・害意のある債務不履行に基づく損害賠償請求権、生命・身体侵害への損害賠償請求権へ変更しました。これらは現実の支払が強く期待されるからです。

第3 ) 一人計算
基本方針では、「一人計算(いちにんけいさん)」という新たな債権消滅形態が提案されています。 債権者と債務者に加えて「計算人」という登場人物を加えて、債権者の債務者に対する債権を消滅させ、債権者の計算人に対する債権と、計算人の債務者に対する債権を発生させる制度です。

一人計算制度の導入目的は、決済の簡易化です。債権者と債務者が一人ずつだと決済の簡易化がイメージしにくいかもしれませんね。 では、A がB に対して100 万円、B がCに対して200 万円、C がA に対して300万円の金銭債権をそれぞれ有していた場合に、1 人計算を適用するとどうなるでしょうか。

この後、相殺処理を行うと、計算人からA への200 万円の債権、B から計算人への100 万円の債権、C から計算人への100 万円の債権が残ることになります。こうすると、A が計算人に200 万円支払い、B、C は計算人から各々100 万円の支払いを受ければ決済が終了します。 B がA に100 万円支払い、C がB に200 万円支払い、A がC に300 万円支払うことに比べれば簡易に決済できることがお分かりいただけるのではないでしょうか。 そして、A やB やC が破産等をしたり、差押えを受けることになっても、元の債権は復活しないこととして決済の容易化を保護すると説明されています。 一人計算は、計算人と債権者、債務者の合意により成立します。上記のとおり、A が破産しても計算人は、B、C への支払義務を免れないので、A の倒産リスクを負う計算人は、一人計算成立の合意の際に債権者、債務者から手数料をとることになるのでしょう。しかし、この手数料の問題をどうするか、などは検討されておらず、実務上どう用いるかを想定しているのかはよく分かりません。

第4 ) 免除
現行法は免除を単独行為としていますが、基本方針では、免除は合意によることとし、免除の意思表示に債務者が異議を述べなければ合意とみなされるとしています。 債務者の意思を無視して免除を認めるべきではないという考えに基づくものです。

第5 ) 債権時効
(1)対象及び時効期間
ア 対象

基本方針では、不動産賃借権を除く債権の消滅時効について、民法総則ではなく、債権総論の債権の消滅の項目で定めるべきとしています。その理由は、債権の消滅時効については他の財産権の消滅時効と異なる扱いを多く設けるべきであるからとしています。ではどのような提案がなされているのでしょうか。

イ 時効期間

(ア)原則規定
まず、時効期間について、債権行使することができるときから10 年という従来の規定を維持しながら、債権の発生原因および債務者を知ったときは、知った時から10 年よりも短い期間(3 年、4 年、5 年の意見があります)で期間が満了することを提案しています。具体的な債権の発生原因及び債務者を知りながら放置する債権者には帰責性があるからだと時効期間短縮の理由を説明しています。 それから、現行民法169 条から174 条までの短期消滅時効、不法行為の消滅時効について定めた724 条も廃止するとしています。債権の時効については統一的に規定することが望ましいこと、基本的な時効期間が短縮されるので、短期消滅時効を定める必要性が乏しくなることを理由にしています。
(イ)例外規定
確定判決等により確定された債権の時効期間は10 年とすることは認めています。権利の存在が確実であるし、債務名義を得た者を早々に執行に駆り立てるのは不適当である、との考えに基づきます。 また生命・身体・名誉等人格的利益に対する侵害による損害賠償債権については、権利行使可能なときから30 年、債権の発生原因および債務者を知ったときから5 年または10 年で時効期間が満了するとしています。侵害の回復を受けるべき利益を尊重して長期の時効期間を認めました。
(ウ)時効期間についての合意
現行法では時効期間を伸長する合意は無効と解釈されてきましたが、基本方針では、6 か月(1 年という意見もあります)から10 年の範囲で、時効期間を短縮・伸長する合意を認めています。当事者の意思を尊重する考えからこのような規定を設けました。

(2)債権時効障害

ア はじめに

債権時効に係る時効障害を、従来の中断と停止の2 類型から、時効期間の更新、時効期間の進行の停止、時効期間の満了の延期の3 類型とすることにしました。

イ 時効期間の更新

従来の時効の中断にあたる概念です。時効の進行が振り出しにもどり、再び初めから時効の進行がはじまります。「中断」という言葉よりも「更新」という言葉の方が内容を正確に表しているという考えから、基本方針では言葉を改めています。 従来、時効の中断には請求、差押え、仮差押え、仮処分、承認が認められてきました。しかし、基本方針では執行手続きの終了と承認のみに更新の効果を認めています。 請求は、まだ、権利の存在が不確定な段階であること、確定判決による時効期間の延長を期待すればよく、請求自体に更新の効果を認める必要はないこと、が理由として挙げられています。仮差押え、仮処分といった民事保全についても同様の理由が挙げられています。

ウ 時効期間の進行の停止

従来の民法にはなかった概念です。残存の時効期間を減らさずに、時効期間の進行を止める制度です。 裁判上の請求等従来の請求に該当するものや民事執行や民事保全の申立により時効の進行が停止します。権利が確定していない以上、更新の効果まで認めることはできないが、債権者の権利を保護するため時効完成を認められない場合に進行の停止の効果を認めました。従来の裁判上の請求に加えて、債権についての協議をする合意、裁判外紛争処理手続の利用にも進行の停止の効果を認めました。 進行の停止がされた後、権利が確定しないまま手続が終了するとそれまで進んでいた時効の進行が再開します。権利が確定すると確定判決等による時効期間の延長や執行手続きの終了により更新が認められます。協議の合意や裁判外紛争処理が成立すれば、債務者の承認により更新が認められます。 また、一部であることを明示した一部請求については、現在は判例上一部についてしか時効の中断を認めませんが、基本方針では全部について進行の停止を認めています。中断よりも効果の弱い進行の停止であること、一部と明示しているなら残部について争う認識があろうことが理由として挙げられています。エ 時効期間の満了の延期 従来の時効の停止に相当する概念です。時効期間が経過しても、一定期間時効を完成させません。「停止」という言葉よりも「満了の延期」の方が内容を正確に表しているとして、言葉を改めています。基本方針では、催告に時効期間満了の延期の効果を認めています。

(3)債権時効の効果
一番問題となるのが、債権時効の効果です。実はこの点について、基本方針は一つの考えに絞りきれていません。二つの考えを併記しています。法制審議会も平成22 年4 月現在、この点についてまだ議論していません。ここでは二つの考え方を紹介するにとどめておきます。 一つは、従来の解釈論を引き継ぐ考え方です。時効の援用により、債権が消滅するという考え方です。 もう一つは、時効の援用によっても債権は消滅せず、抗弁権として機能するという考え方です。この考え方は、時間の経過により権利が消滅するのは不自然であるという考え方が根本にあります。債務者の保護としては支払を拒絶する抗弁権を認めれば充分であるという考えです。

第6 ) おわりに
債権総論の部分の改正案は、多岐にわたりますし、改正内容も現行法と大きく変わるものが多くあります。今回述べた以外に大きな変化として特定物の現状引渡しを定めた民法483条も廃止されます。これは、瑕疵担保に影響がでてくるので、次回売買契約について述べるときに併せて述べます。債権譲渡、多数当事者の債権債務関係、保証についても次回に紹介します。

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