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債権法改正について(4・完)(2010年8月23日)

債権法改正について (4・完)

第1 はじめに

今回は,債権総論部分について,前回紹介しきれなかった,債権譲渡,多数当事者の債権債務関係,保証を紹介したうえで,契約各論部分について紹介します。今回も,従来の判例理論を明文化したものや商法等の他の規定を取り込んだ部分は除き,現在の運用と異なる規定だけをみていくことにしましょう。

第2 債権総論

1 債権譲渡

債権譲渡禁止特約について従来は第三者に対しても主張でき特約の存在について悪意又は善意重過失の譲受人に対する債権譲渡は,そもそも無効だと解されてきましたが,基本方針では,当事者間にのみ効力を有するにとどまるとしました。つまり,たとえ債権譲渡禁止特約について譲受人が悪意又は善意重過失であっても,債権譲渡は有効となります。特約に違反した譲渡人が債務者に対して債務不履行責任を負うにとどまります。但し,債権譲渡が有効だとしても,債務者は債権を主張してきた譲受人に債権譲渡禁止特約の存在を対抗できます。債務者が債権譲渡を承認したとき,譲受人が善意無重過失であるとき等は対抗できません。

また,金銭債権の債権譲渡の対第三者対抗要件を登記としています。そして,対債務者対抗要件(基本方針では「権利行使要件」といいます)としては従来認められていた債務者の承認を認めないことにしました。これは,債務者を債権譲渡のインフォメーションセンター機能から解放すべきだという考えに基づきます。

2 多数当事者の債権債務関係

連帯債務について相対効の原則を現行法より徹底しています。現行法では絶対効とされてきた,請求や更改や免除や時効が原則として相対効とされました。連帯債務もあくまで別々の債務だから,一人の効力を全員に及ぼすのは慎重であるべきという考えによります。

また,他の連帯債務者の債権を援用した相殺も廃止しています。他人の債権を勝手に処分するのは不適当だという考えによるものです。

3 保証

(1)保証一般

従来の保証契約とは別に,債務者と保証人との間で締結される保証引受契約を規定し,債権者の同意により保証債権が発生するとしました。また,催告の抗弁を廃止しています。主債務者への催告を求めるだけで,あまり抗弁としての実効性がないという考えによります。

現行法は数人の保証人がいるときに分別の利益を認めています。つまり,保証人が二人いるときは各々2分の1ずつの債務を,保証人が三人いるときは各々3分の1ずつの債務を保証することになります。しかし,基本方針では,保証人が複数いる場合,保証人は互いに連帯することとしました。保証人が複数いる場合,債権者はどの保証人に対しても債権全額を請求できます。これは,保証人が一人の場合より複数の場合を債権者に有利に扱うべきとの考えによります。

保証人の事前求償権の制度も廃止しています。事前求償が認められるような場合は,主債務の弁済期が到来している場合等債権者が執行できる場面であり,保証人は,債権者に債務者への執行を促し,それでも債権者が適切な時期に執行しなかったために被った損害分については,保証人に義務を負わせないことで充分という考えに基づきます。

(2)連帯保証

判例は,債権者にとって商行為性があれば保証は連帯保証となるとしていますが,基本方針は保証人にとって商行為であるときに連帯保証となる,としています。

(3)根保証

現行法は貸金等の債務に限り,根保証をするにあたって極度額の定めを求めていますが,基本方針は,貸金債務に限らず,全ての債務について個人が根保証をする場合には,極度額の定めを必要とします。もちろん,保証人の保護を目的とするものです。

第3 契約各論

1 売買

担保責任を債務不履行の一種としています。したがって,担保責任による解除や損害賠償は,債務不履行による解除,損害賠償と同じ要件で認められます。つまり,重大な不履行があれば解除,債務者が引き受けた事由により債務不履行が生じれば損害賠償が認められます。(債務不履行による解除,損害賠償の要件については第1回の記事をご参照下さい)

たとえば,他人物売買については,履行不能等になったときは,他人物であることにつき善意の買主も悪意の買主も重大な不履行があったとして解除でき,売主に支払っている部分があれば,売主が引き受けた事由により債務不履行になったとして損害賠償も認めらます。一部他人物売買や瑕疵担保についても同様です。一部他人物売買,制限物権付売買,瑕疵担保については,買主の代金減額請求も認めています。瑕疵担保の場合は売主に過分な費用を負担させるものでない限り代物請求や修補請求等の追完請求も認められます。この際,買主が瑕疵につき善意無過失でなくとも,後発的瑕疵でも瑕疵担保責任は生じます。

担保責任追及について短期の期間制限はあまり合理的理由がないと考え廃止しています。

瑕疵ある目的物が滅失した場合,契約の性質上可能な限り買主は瑕疵のない物を追完請求できますが,その際,買主は瑕疵ある物の価格を返還しなければなりません。瑕疵ある物を受領した買主は,瑕疵ある物を返還して瑕疵のない物を追完請求することが原則となります。瑕疵ある物が滅失した場合,瑕疵ある物を返還することはできないので,瑕疵ある物の価格を償還し,瑕疵のない物を追完請求します。買主は,追完請求権を放棄して瑕疵ある物の価格返還を免れることも可能です。

2 贈与

贈与契約の後,受贈者が贈与者を虐待したり,贈与者を扶養する義務があるのにその履行を拒絶したりした場合,贈与者が贈与契約を解除できることを定めました。贈与契約は親族間で,老後の世話を受けること等を理由に締結されることが多い契約です。つまりは,贈与契約は人的信頼に基づく契約といえ,その信頼が破壊されれば解除を認めるべきとの考えによります。贈与者が死亡した場合,相続人による解除も認めています。期間制限としては,解除権を行使し得る時から1年、贈与の履行から10年を定めています。当事者間の法律関係の早期安定のための規定です。

また,贈与者は目的物の保管について自己財産と同一の注意で足りることを定めました。無償契約なのに有償契約のような善管注意義務を課すのは酷だとの考えに基づきます。さらに,贈与契約解除による原状回復義務は現存利益に限られると定めました。これも贈与契約が無償契約であることから,解除にあたって贈与者から何らの返還も受けない受贈者の義務を軽減したものです。

死因贈与について,遺言と同じく公正証書または自筆証書による必要があることを定めました。当事者の意思明確化による紛争防止,安易な契約締結防止を狙いとしたものです。

3 賃貸借

不動産に限らず、全ての賃貸借について,事情変更による賃料増減額請求を認めることとしました。さらに,目的物の一部が利用できない場合,一時利用ができない場合賃料が発生しない旨を定めました。これらは,賃料が目的物利用の対価であるという考えを徹底するための規定です。

4 使用貸借

使用貸借契約を諾成契約としました。そのうえで,書面によらない使用貸借契約は,目的物の引き渡しまで,貸主からの解除を認めました。借主からの虐待や扶養義務履行の拒絶による解除も認めています。これらはいずれも,使用貸借契約を贈与契約と同じ無償契約と考え,贈与契約と同じように規定しようという考えによります。

費用償還の短期の期間制限は合理性がないという理由で削除しています。

5 消費貸借・ファイナンスリース契約

消費貸借契約を諾成契約とし,新たな典型契約として,ファイナンスリース契約を定めています。ファイナンスリース契約を新たな典型契約とした理由として,ファイナンスリース契約が現代取引において重要な役割を担っていること,ファイナンスリース契約が既存の典型契約に単純に解消されないことが挙げられています。

具体的な規定としては,リース提供者,供給者,利用者の役割について確認した規定,利用者が目的物受領後即座に瑕疵を確認する義務を定めた規定,リース提供者が修繕義務を負わないことを確認する規定,利用者による目的物の第三者利用にはリース提供者の承諾を要す旨の規定等が定められています。

第4 おわりに

一年を通じてお送りしてきた,債権法改正記事ですが,今回で終了となります。第1回を掲載した平成21年12月の段階では,法務省に法制審議会も立ちあがっていませんでしたが,現在(平成22年8月時点)では,法制審議会民法(債権関係)部会も回を重ね,これまでに12回の会議を開いています。

債権法の改正案が具体的な法案として出来あがるタイミングは未定ですが,少しずつ準備は進んでいます。今後も議論の行く末をみていきたいと思います。

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