会社法改正 (2013年12月26日)
会社法改正
弁護士・ニューヨーク州弁護士 佐藤有紀
企業統治(コーポレートガバナンス)の強化を柱とする会社法改正に関する法案が平成25年11月29日に閣議決定され、同日、第185回国会に提出されました。これは法務省の法制審議会会社法部会第一回会議が平成22年4月に開始されてから、同部会による平成24年8月1日付「会社法制の見直しに関する要綱案」の決定を経て、今回法案化されたものです。
今回の会社法改正には実務に影響を与える点がいくつかありますが、そのハイライトのひとつが社外取締役の義務化(するかどうか)という点でした。今回は、この点について概説したいと思います。
1.社外取締役設置義務化見送りと説明義務
結局、改正案によれば、監査役設置会社である上場会社等(正確には、金融商品取引法<以下「金商法」といいます>第24条第1項の規定によりその発行する株式について有価証券報告書を内閣総理大臣に提出しなければならない会社)において社外取締役を置いていない場合、「取締役は、当該事業年度に関する定時株主総会において、社外取締役を置くことが相当でない理由を説明しなければならない」という条項が加わることになりました(会社法第327条の2の新設)。
会社法は、上場会社と非上場会社とを問わず、すべての株式会社に適用される法律ですが、この社外取締役未設置に関する説明義務は上場会社等のみに課される義務ということになります。そこで(上場会社と非上場会社とを区別する)金商法を引用し、会社法に金商法上の概念を持ち込む形で法改正することになりました。
上場会社が社外取締役を置くことが相当でない理由を説明する際には、事業報告書という書面ではなく、定時株主総会において直接株主に説明しなければなりません。これまでの実務に鑑みると、事業報告書という書面のみでの説明となれば、テンプレートのような表現を用いてどの上場会社も同じような説明を行うことになっていただろうと思いますが、取締役が定時株主総会で理由を説明しなければならないとなると、そのような形式的な対応では難しいのではないかと思います。その意味では、社外取締役を設置しない積極的な理由を各社で考えなくてはならないこととなり、社外取締役制度に対する各社の理解が深まるのではないかと期待されます。
また、私の実務経験からすると、毎年株主総会はあるものの、株主の前で報告・説明を行うのが取締役の本業ではないため、説明を担当される取締役も出来る限り株主からの厳しい質問は少なくしたいのではないかと思います。この観点からすると、定時株主総会において社外取締役不設置の理由を説明しなければならなくなる(そしてその質問に対応しなければならなくなる)のであれば、いっそのこと社外取締役を設置した方が無難ではないかと考える上場会社が出てくるのではないかという予想もされます。結果として、社外取締役設置義務規定は見送られたものの、実質的には社外取締役の設置を半ば強制するようなプレッシャーを与える規定が会社法改正案に導入され、社外取締役設置義務と同様の働きをすることを立法者は期待しているのではないかとも推測されます。
2. 社外取締役の定義の変更
技術的な話になりますが、改正案ではそもそも社外取締役の定義が改正されることになります(会社法第2条第15号)。これまでは当該株式会社またはその子会社等の業務執行取締役もしくは執行役又は支配人その他の使用人である(あった)かどうかで判断されていました。今後は社外取締役の要件に、①株式会社の親会社等またはその取締役もしくは執行役もしくは支配人その他の使用人でないこと、②株式会社の親会社等の子会社等(当該株式会社及びその子会社を除く。)の業務執行取締役もしくは執行役又は支配人その他の使用人でないこと、③株式会社の取締役もしくは執行役もしくは支配人その他の重要な使用人または親会社等(自然人であるものに限る。)の配偶者または2親等内の親族でないことが追加されます。
この改正により影響が出るのは、上場会社の社外取締役に、親会社等の取締役が就いている場合です。当該上場会社が、いわゆるオーナー企業であったり上場子会社であったりする場合には、現在の社外取締役が会社法改正後も「社外取締役」に該当するのかチェックが必要になります。
また、社外取締役の要件に係る対象期間についての規律が以下の通り改められることになりました。すなわち、
(1) その就任の前10年間株式会社またはその子会社の業務執行取締役もしくは執行役または支配人その他の使用人であったことがないこと
(2) その就任の前10年内のいずれかの時において、株式会社またはその子会社の取締役(業務執行取締役もしくは執行役または支配人その他の使用人であるものを除く)、会計参与または監査役であったことがあるものにあっては、当該取締役、会計参与または監査役への就任の前10年間当該株式会社またはその子会社の業務執行取締役もしくは執行役または支配人その他の使用人であったことがないこと
という形で対象期間が制限されました。従前の会社法は、対象期間に制限がなかったことから、一度でも取締役等になった場合、社外取締役に就任することはできないことになっており、その点が問題とされていましたので、立法によって解決が図られることになります。なお、親会社の「元」取締役は(10年待つことなく)社外取締役になることができます。