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テレワークに伴う「ジョブ型」雇用の導入(2020年6月22日)

テレワークに伴う「ジョブ型」雇用の導入

弁護士 倉本武任

1.はじめに

労働者が多様な働き方を選択できる社会の実現を狙いとした働き方改革を推進するための関係法律の整備に関する法律(平成30年法律第71号)(以下、働き方改革関連法といいます。)が2018年6月29日に成立してから、はや2年が経過しようとしています。

働き方改革関連法は1つの法律ではなく、労働基準法、パートタイム労働法などの労働関係法令を改正するものですが、同法の概要においては、労働者がそれぞれの事情に応じた多様な働き方を選択できる社会を実現する働き方改革を総合的に推進することを目的として、①働き方改革の総合的かつ継続的な推進、②長時間労働等の是正、多様で柔軟な働き方の実現、③雇用形態にかかわらない公正な待遇の確保を3つの柱とすることが掲げられています[1]。この②の多様で柔軟な働き方を実現する手段として、テレワーク[2]という手段が着目されていました。本稿では働き方改革が期待したテレワークとはどういうものであったか、コロナ禍により結果としてテレワークが浸透したことで、昨今、いくつかの企業が導入を検討している「ジョブ型」雇用について、その導入にあたっての留意点について検討したいと思います。

2.働き方改革が期待したテレワークとは

働き方改革関連法の成立前に、政府主導の働き方改革実現会議が決定した「働き方改革実行計画」の中では、働き方改革の実現に向けた9つの検討テーマの1つとして「柔軟な働き方がしやすい環境整備」が掲げられ、そこでは、テレワークは、時間や空間の制約にとらわれることなく働くことができるため、子育て、介護と仕事の両立の手段となり、多様な人材の能力発揮が可能となると掲げられています[3]

働き方改革が主眼としたのは、上述のような時間、場所に拘束される働き方ができなかった層にも参加しやすい労働環境を作るという点にありますが、結果としてはその導入は進んでいませんでした[4]。このように導入が進まなかった背景には、テレワークは、勤務時間管理が困難であり、企業としても、平時に導入することによる費用対効果を考えると規模の大きい余裕のある大企業を除けば、なかなか、導入に前向きにはなれなかったものと考えられます。他方で、コロナ禍により、テレワークが難しい職種を除けば、少なくともオフィスワークの従業員に対するテレワーク(在宅勤務)の導入は、緊急事態宣言を受けての外出自粛要請に伴い、まさに非常時の企業の事業継続性の確保のため、緊急的に大きく進みました。

3.「ジョブ型」雇用の導入について

当初の働き方改革関連法が想定しない形で、結果として在宅勤務という形態が広がることになりましたが、在宅勤務制を採用する場合の課題は勤務時間管理の困難性です。この点について、いくつかの企業では、新型コロナウイルスの終息後も在宅勤務を続け、働きぶりが見えにくい在宅でも生産性が落ちないよう職務を明確にする「ジョブ型」雇用を本格的に導入することが検討されています。ここでいう「ジョブ型」雇用というのは、明確に行うべき職務が与えられ、それが達成された成果やスキルに応じて給与額が、決まるというものです。確かに勤務時間でなく成果で評価する制度であれば、在宅勤務において、労働時間を管理する必要性も少なくなります。

このような自己管理型の労働者を想定した成果主義的な制度については、実際に上述の働き方改革関連法による労働基準法の改正の1つである高度プロフェッショナル労働制(労基法41条の2第1項)が存在しています。

この制度においては、所定外労働についての割増賃金支払を不要となるため、賃金面で労働者の不利益となる可能性があることから、当該業務が高度に専門的なものであって労働時間を拘束することが労働者の能力発揮の妨げとなることや、割増賃金不払を補ってあまりある経済的待遇が与えられることが同制度が妥当性をもつ理由となります。

そうだとすれば、上述のような前提が認められないなかで、テレワークによる労働時間管理の困難性という理由のみをもって、自己管理型の労働者を想定した成果主義的な制度を取り入れることはできません。現在雇用関係にある従業員との間では、職務を与えての雇用とはなっておらず、そのような中で、高度プロフェッショナル労働制等の制度を適用することなく労働時間管理を完全になくすということはできないと思われます。

4.「ジョブ型」雇用の導入にあたっての留意点

既存の職務無限定の正社員について、「ジョブ型」雇用による正社員[5]とするため、従来の勤続年数による年功序列型の賃金体系を成果主義的な賃金制度に変更するのだとすれば、労働者によっては、賃金額が大幅に減額する場合もあり得、労働条件の不利益変更に該当する可能性があり[6]、対象となる労働者との間で個別に同意するか、就業規則の変更(労働契約法10条)又は労働協約による変更が必要となります。労働契約法10条は、労働者の同意の有無にかかわらず終業規則を変更できるのは、変更後の就業規則を労働者に周知させ、かつ、就業規則の変更が、変更の必要性、変更内容の相当性等を考慮して合理的な場合で、労働者と使用者が当該労働条件について就業規則の変更によって変更できない旨の特別の合意をしていない必要があり、その変更内容によっては、その合理性が否定されるリスクもあります。

したがって、「ジョブ型」雇用を導入するとしても、まずは対象となる労働者との間で個別に同意を検討し、同意を得るにあたっても、仕事の内容の決定、仕事の成果の判断は誰が行い、どのような基準に基づいて行われるのか、仕事内容の変更の可能性や就業場所としてテレワークを認めるのであれば、テレワーク時の始業・終業時間・休憩時間・超過労働時間の管理を従業員に任せつつ、これらの時間を把握する方法(始業・終業時にメールで通知する又は自身で労働時間を記録し、報告してもらうなど)等、その中身については、細かな点を含めて労使間で十分に話し合い決めるべき必要があると考えられます。

5.テレワークをいきなり成果と結びつけない

少なくとも新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のワクチンや有効な治療薬が開発、普及されるまでは、従業員の安全配慮義務を超え、社会の一員として、感染者を増やさないという観点でもテレワークを考える必要があるでしょう。テレワークによる方が成果が上がるからというのではなく、社会から必要とされているからテレワークを続けるのであって、その中で、時間管理の工夫、成果を上げる工夫を労使間で作り上げていくという視点が必要ではないでしょうか。

以上

[1] 厚生労働省『働き方改革を推進するための関係法律の整備に関する法律 概要』

[2] 厚生労働省『テレワークではじめる働き方改革』7頁 テレワークとは、ICT(情報通信技術)を活用し、時間や場所を有効に活用できる柔軟な働き方であり、テレワークには、①在宅勤務、②モバイルワーク、③サテライトオフィス勤務という3つのスタイルがあるとされています。

[3] 働き方改革実現会議決定『働き方改革実行計画(概要)』平成29年3月28日

[4] 総務省『平成30年通信利用動向調査の結果』令和元年5月31日 スライド6によれば、企業においてテレワークを導入している又は具体的な導入予定があるのは、26.3%(導入しているが19.1%、導入予定が7.2%)[4]とされています。

[5] 内閣府規制改革推進会議『ジョブ型正社員(勤務地限定正社員、職務限定正社員等)の雇用ルールの明確化に関する意見』においては、「職務か勤務地、あるいは労働時間のいずれか、または複数の要素が限定されている社員」と定義されています。

[6] 労働契約法10条の「変更」には、不利益変更の可能性も含むとされています(東京高判平成18年6月22日 労判920号5頁)

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