TPP 協定による知的財産への影響(2015年12月15日)
TPP 協定による知的財産への影響
弁護士 田中 敦
本年10 月、環太平洋パートナーシップ協定(Trans-Pacific Partnership Agreement、以下「TPP」)が大筋合意に至りました。TPP 第18 章では知的財産の保護について定められており、今後、TPP の規定項目について法改正が具体的に検討されることとなります。以下、知的財産に関するTPP の規定項目のうち代表的なものをいくつかご紹介します。
1.特許・医薬品開発データ
公表から12 か月以内に出願された発明については、当該公表により新規性・進歩性が否定されることがないとの例外規定が置かれています(第18.38 条)。また、特許期間は出願日を基準として定まるところ(出願日から20 年)、出願から権利登録までに不合理な遅延がある場合、特許期間の延長が認められることとされています(第18.46 条)。
医薬品の臨床試験等のデータ保護期間については、新薬開発を行う自国製薬会社の保護強化へつなげたい米国とこれに反対するオーストラリア等との間の交渉の結果、実質8年間とすることで合意されています(第18.50条)。
2.著作権等
現在の日本での著作権の保護期間は著作者の死後50 年(無名・団体名義の著作物は公表後50 年。ただし映画の著作物を除きます。)ですが、TPPでは、著作者の死後(公表後)少なくとも70 年と定められています(第18.63 条)。
また、故意による商業的規模の著作物の侵害については、これを非親告罪とすることが定められています(第18.77 条6)。ただし、当該条項には、「その適用を著作物等を市場において利用する権利者の能力に影響を与える場合に限定することができる」との脚注が付されています。これは、二次創作物を扱うコミックマーケット(コミケ)等が刑罰対象となることで、新たな創作活動による文化の発展が妨げられるのではないかという日本の懸念に配慮したものといわれています。
さらに、著作権侵害・商標の不正使用については法定損害賠償・追加的損害賠償(懲罰的賠償を含みます。)が定められており(第18.74 条6~同条8)、仮にこれら制度を導入した場合、侵害予防効果が期待できる反面、賠償金高額化や訴訟増加といったリスクを懸念する声も上がっているところです。